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母の誕生日に思う [記憶に残っていること]

 

 昨日、7月9日は、母の誕生日だった。

 1928(昭和3)年生まれだから、今年77歳になる。

 いわゆる喜寿ということなので、父も一緒に一家でお祝いしようと考えていた。

 

 ところが母は、そんなお祝いなんかいらない、と頑固に辞退するのであった。 

 聞けば、そういったお祝いのあとは、なぜか良くないことが起こりがちだから、と言うのだ。

 「ほら、満つれば欠ける、って言うからね」と母が言った。

 だから、お祝いはもっと後に残しておきたいそうなのである。

 

 

母は、東京都中野区の生まれ育ちである。祖父は、東京都の職員であった。 

 

 母は長女で、下に弟が2人と妹が1人の4人兄弟である。 

 公務員の家庭だったので、慎ましい生活だったが、不自由したことは何もなかったそうだ。

 

 小学校を卒業したあと、彼女は高等家政女学校に進学する。

 同じころ太平洋戦争が始まり、2年生までは勉強できたものの、それ以降は休校になった。

 学校が休みになって、女学生たちは、いろいろな工場に動員された。

 母は、海軍に行くことになり、当時目黒の海軍大学校敷地内にあった情報部に配属された。

 そこでは、最年少の事務員として事務の手伝いなどをしていたらしい。 

 「海軍の中は、食べ物や物資がたくさんあったよ」と母は言う。

 

 終戦後、母は学校には戻らず就職した。

 「閉鎖機関整理委員会」という組織で、そこでも事務をしていたようだ。 

 この組織は、終戦後の財閥解体運動につながるもので、軍需で利益を得た会社を

 解散させたり、統合させたりする組織だった。

 母は、ここで父と知り合い、1952年結婚した。

 

 やがてこの組織自体も解散となり、両親は練馬区に移り住み、司法書士事務所を始めた。

 その後、50年近く、母は父と一緒に事務所で働いている。

 今でも現役である。

 書類の作成能力などは、父も、もちろんわたしも敵わない。

 

 そうやって元気で暮らしているので、気持ちも若いのだろうと思う。 

 まだまだ老けこむ年じゃない、と思っているのかもしれない。 

 母の楽しみは、歌舞伎の観劇と旅行である。

 どちらも友達と連れだって、月に1回くらい出かけている。 

 

 もう一つの楽しみは、孫である。

 つまり、わたしの子どものことだ。

 彼女にとって孫は1人だけなので、なんだかんだと言って顔を見に来る。 

 孫を可愛がるのは、祖父母の特権なのだから、せいぜいやってください。

 親としては、場合によっては、厳しくしなければならないときもあるのだから。

 

 「満つれば欠ける」 なかなか含蓄のある言葉だと思う。

 戦前戦中戦後を通しての、母の体験から出てきた言葉なのであろう。 

 自分にピークを置かないで、先の目標を掲げて生きていく。 

 なかなかむずかしいことだが、わたしも母の知恵に倣って、そうしてみようかと思う。 

 

 これから年齢を重ねていく上で、どうやって自分自身を保ちつつ高めていくか。

 その答えの一つになるのかもしれない。 

 

 「頑張った自分へのご褒美」 なんて言っていてはまずいみたいだぞ、妻よ。


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コメント 4

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「満つれば欠ける」…、本当に含蓄のある言葉ですね。
そのように自分に言い聞かせて、
厳しい時代(とりわけ女性にとって)をつつましく生きてこられたお母様の
凛としたお姿をご想像申し上げております。

でもねぇ…、満ちたものは溢れるってこともありますよ。
その溢れ出たもので周囲の人々も幸せにするって考えて
喜寿のお祝いをしておもらいになってもいいんじゃないかしら?
この先は溢れて溢れて、きっといいことばかりが続きますよ。
by (2005-07-11 13:39) 

ナツパパ

ひなさん。
コメント、ありがとうございました。
満ちたものは溢れる、良いお話を伺いました。
そして、溢れ出たもので周囲の人々を幸せに、と言うお考えも素敵です。
母に、こういう風に考えたら、と話してみることにします。
by ナツパパ (2005-07-11 17:31) 

じゅんぺい

先日、ファミレスが大好きというお父様のお話を伺って、お元気でうらやましい
と思ったのですが、お母様も現役で働いていらっしゃるとは!!
「満つれば欠ける」なんて今の日本人が忘れかけている言葉かもしれません。
私達には想像もできないほど苦労された方でなければ、持ちつづけることは
難しいかもしれない…。見習っていかなければいけませんよね。
でも!!お祝いはお祝いでちょっとだけでもした方が…って言っちゃう私も
「自分にご褒美を買ってあげたくなる妻」です(爆)
by じゅんぺい (2005-07-12 19:49) 

ナツパパ

じゅんぺいさん。
コメントとnice!をありがとうございました。
小声で言いますと、大正から昭和一桁生まれ、は頑丈ですねえ。
でも、両親がそろって元気いっぱいなのは、ホントに有り難いことです。
おかげさまで、簡単な祝い事をすることになりました。
母もにっこり笑って、いいよ、と言ってくれました。
by ナツパパ (2005-07-12 20:34) 

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